DXトレンド③ ―SoR、SoE、SoI―

テク仁(えんまん七福仁 IT技術担当)のつぶやき – その3

EnMan社にてCTOを勤めさせて頂いている石井慎一郎です。
EnMan社が、一流IT企業との開発・PMO連携、サービス事業提供、更なるアジア圏ビジネス隆盛を目指す中で、その背景にある昨今のIT技術やシステム動向について徒然なるままに認めます。

企業活動を支援する企業(コンピューター)システムについて、前回チャネル系、基幹業務系、情報系の3つに大別されてきていることを述べました。
また、昨今の「DX」トレンドを受けて、さらに横文字言葉ではありますが、SoR、SoE、そしてSoIという言葉も使われるようになってきています。

【SoR:System of Record】

コンピューターは、定型で、かつ大量のデータを処理する場合に大きな力を発揮します。そのため、従来は紙の伝票で行われていた人事給与システム、経理システムなどの定型業務、さらには、各業種に応じた生産業務、販売業務など、いわゆる基幹業務を対象にシステム化が図られてきました。
この「伝票」による業務遂行ということより、この基幹業務システムは、「伝票」による記録に基づいて稼働するということができます。よって、従来の基幹業務システムのことを、「SoR」と呼ばれることも増えてきました。

基本的に、基幹業務の意義は、「業務活動の効率化・高品質化」にあると言えます。つまり、従来は紙の伝票での業務遂行では、記入ミスやデータの例外処理などで常に人手でのチェックや確認・修正作業が発生していたわけですが、この伝票入力を画面で行い、かつ各種チェックや例外処理(の一部)まで処理の流れを規定し、コンピューターで処理することによって、効率化、高品質化を実現するわけです。

このため、SoRの開発においては、ある伝票に基づき、1つ1つの入力項目についても属性や桁数、エラー処理まで、要件定義工程で仕様化され、その内容に基づいて設計、製造と進められます。このことより、要件定義工程が非常に重要で、ここでミスが発生すると以降の工程までずっとこのミスが引き継がれてしまい、テスト工程で「あれっ?」ということになり、改めて要件定義工程に遡った修正が行われることになるのです。
これが従来の(またはSoRの)システム開発の重要なポイントになります。

【SoE:System of Engagement/Encouragement】

SoEは企業のお客さまとのつながりに注目します。この言葉は、ジェフェリー・ムーアが2011年に発表したホワイトペーパー「Systems of Engagement and The Future of Enterprise IT」で使われた言葉になります。

1970年代から非常な勢いでSoR、企業の基幹業務のコンピューター導入が図られましたが、21世紀を迎える辺りでおおよそ一段落しつつあります。現在の基幹業務システム更改の内容として、コンバージョン(ハードウェアのみを更改し、アプリケーションには基本的に変更を加えない形での開発)、さらにはクラウドサービスの活用などが増えてきています。

しかしながら、Webやスマホが当たり前に使われるようになり、その利用者がコンピューターの専門家のみならず、一般利用者まで広がりつつある現在では、まずはビジネス要件が在りきで、どんなシステムを用意すればそのビジネス要件を実現できるのかが分からないような場合も増えてきています。

例えば、基幹業務系システムの更改ではなく、Web上の自社商品の販売システムを開発することによって販売量を二倍にしたいというビジネス要件などが挙げられます。つまり、チャネル系システムの開発になりますね。
このビジネス要件に対して、こうすれば必ず2倍になると技術的な観点からコミットすることは通常はできません。見た目を派手にする、音声入力を可能にする、一度でもアクセスして頂いたお客様の情報を活用したリコメンド情報をPushするなど、また販売促進施策としてポイント制の導入やタイムセールの実施など、様々なアイディアは出せます。しかしながら、本当に販売量を2倍にできるのかについては、やってみないと分からないというのが本音になるわけです。

つまり、SoEとは、個人消費者や社外企業などの取引先とのコンタクトし、消費者の嗜好(しこう)多様性に合わせて的確に新サービスを提供するものとして今は使われています。新技術適用の進取の気性が求められ、実現・改修の素早い対応が求められることになります。

【SoI:System of Insight/Intelligence】

SoIとは、所謂以前述べた、情報系として蓄積された情報の加工や分析を通じて何らかの有用な知見を得ることを目的とします。
典型的な事例としては、ECサイト上で記録された顧客の行動履歴データを解析し、より顧客の購買意欲を向上させるような施策候補を洗い出すようなシステムが挙げられます。
つまり、SoEによって獲得される各種トレンドデータを収集、蓄積、分析し、
・SoRで提供すべきサービス・商品のリコメンド
・SoEでの提供の仕方のリコメンド
を提供し、さらに上記のサイクルを迅速化することにより、企業価値を高めるものがSoIとして登場しています。従来の情報系に、AIやデータ活用技術が適用されてきているといえるわけです。

さて、特にこのSoEの開発に関しては、ある意味、Try&Errorの精神が求められます。なるべく早くマーケットに出して評価を得た上で、退くか進むかの判断を行い、進む場合には次の開発を行うことになるわけで、そこではゆっくり開発をしていることは許されません。
この状況から、開発方式としても、上図にあるようなAgileやDev/Opsという新しい開発方式の議論も行われてきています。
次回からは、このAgileやDev/Opsについて採り上げてみたいと思います。

この記事の執筆者

石井 慎一郎

1984年 東京大学卒、日本電気㈱入社
ソフトウェア開発研究部門 配属(18年) 、金融システム開発、SI部門(13年)、グローバルビジネス推進部門(CTO)(3年)
時代の最新ソフトウェア・アーキテクチャの研究開発経験を礎に、ビジネスの最前線への適用、大規模SIでの顧客対応、最新技術プロダクトのグローバル展開を行った貴重な経験を持つ。
2018年末 日本電気㈱退職。個人事業主にてIT領域で企画・開発支援等、幅広く活動。
2020年7月~ EnMan Corporation 取締役CTO