DXトレンド① ―技術進化による知見の可視化と共有―

テク仁(えんまん七福仁 IT技術担当)のつぶやき – その1

EnMan社にてCTOを勤めさせて頂いている石井慎一郎です。
EnMan社が、一流IT企業との開発・PMO連携、サービス事業提供、更なるアジア圏ビジネス隆盛を目指す中で、その背景にある昨今のIT技術やシステム動向について徒然なるままに認めます。

最近、ある企業の新人の1年目の最後の研修ネタとして、コンピューターとシステムの役割の歴史をまとめてテキストとして提供する機会がありました。安請け合いしたのはよいのですが、結構、何を記載して何を省くかのネタの整理に時間が掛かり、20頁ほどの予定が30頁ほどに膨れ上がってしまったりなど相当苦労しました。

私は1960年生まれで、20歳代半ばよりIT業界に身を置いてきましたので、丁度メインフレーム全盛の時代から、UNIX登場、そしてオープン、ダウンサイジングの潮流の最中に、コンピューターシステム関連の業務を行ってきました。その当時、コンピューター業界での開発手法やアーキテクチャにも大きな変革が起き、かつ企業においても従来のIT大企業にシステムはまるっとお任せとのお約束が崩れ、システムの構成要素毎にベストなオープン製品を組み合わせて開発する形が普通になりました。その辺りまでの上記テキスト記述は、個人的な見解も多いとは言え、まさに時代の中で感じてきたことをそのまま書けばよいので、非常にスムースにいきました。

そして今です。世の中には「DX」との言葉が溢れ、このコロナ騒ぎへの対応も含めて最もIT活用に保守的な官公庁までも、「デジタル庁」発足や印鑑廃止をトリガーに様々な施策が検討・実現が図られていくでしょう。ただ、ここで起きてきている世の中の事象が、それと並行して進んでいる技術進化とどんな関係があるのか、その辺りを自分の腹に落とした上でテキストに向かわないと、表層的な事象だけを記載することにもなってしまうと感じました。そこで、その時に整理した内容などを、このコラムを通じてお話してみたいと思います。

この「DX」という言葉の背景にある技術の進化の中で、最もよく特徴が表れている事象として私が感じているのは、従来、「匠」の業としての勘や経験が「可視化」され、誰でも使うことができるサービスとして提供されるようになったことだと思っています。

例えば、若干、旧聞となりますが、2018年6月4日の毎日新聞に下記のような記事が載っていました。
コンピューターのキーボード操作の状況から、例えばパーキンソン病の兆候などを発見するというものです。これは、従来、医者の問診や検査の結果を踏まえて判断されるものですが、人間の活動状況を集めたデータ母集団から、ある一定の特徴を抽出し区分けすることで、診断の補助に活用するわけです。

このような事例は、最近では例えばスマート漁業、スマート農業、遠隔治療など、クラウドサービスとして、また各種スマホアプリとして提供されてきているのはご案内の通りです。

実は、このような様々な知見を可視化して活用するというトレンドは、IT業界ではいち早く行われています。例えば1980年代のUNIX開発は、UNIXのOSコードが公開され、世界中の開発者がこぞって改造を繰り返して現在に至っています。

また、私がプログラムのコーディングを学び始めたころは、先輩に様々なテクニックを教わりましたが、そのような内容が「デザインパターン※」というような一般書籍で公開されたりもしているのです。

※エリック・ガンマ、ラルフ・ジョンソン、リチャード・ヘルム、ジョン・ブリシディース(著)、、本位田真一、吉田和樹(監訳)、『オブジェクト指向における再利用のためのデザインパターン』、ソフトバンクパブリッシング、1995。ISBN 978-4797311129.

このようなトレンドを私は「Sharing Economy」の一環で認識していましたが、世の中の知見を「見える形」で広く共有しようとの流れと、各種データ分析結果に基づく「可視化」の技術進化と相まって、今に至っているのだと感じています。

さて、このような技術進化に対して、企業システムではどんな変化が起きているのでしょうか。

元々、コンピューターの企業活動への適用は、「基幹業務」への適用が図られていました。つまり、製造業では「生産管理システム」、金融業では「勘定系システム」など、企業の最も重要な業務活動の効率化を目的にコンピューターが導入されてきていました。さらに、会計や人事給与なども加えて、企業活動全般を包含する「ERP」パッケージなども登場し適用されてきています。

そして、オープン、ダウンサイジング、そして今、DXのトレンドを受けて、企業ではどのようなシステムが求められてきているのかについて、次回、述べてみたいと思います。

この記事の執筆者

石井 慎一郎

1984年 東京大学卒、日本電気㈱入社
ソフトウェア開発研究部門 配属(18年) 、金融システム開発、SI部門(13年)、グローバルビジネス推進部門(CTO)(3年)
時代の最新ソフトウェア・アーキテクチャの研究開発経験を礎に、ビジネスの最前線への適用、大規模SIでの顧客対応、最新技術プロダクトのグローバル展開を行った貴重な経験を持つ。
2018年末 日本電気㈱退職。個人事業主にてIT領域で企画・開発支援等、幅広く活動。
2020年7月~ EnMan Corporation 取締役CTO