事業承継税制(4)~新しい事業承継税制

 新事業承継税制は、事業承継を希望する会社がすべて適用されるわけでなく、一定の枠に収まった会社のみ、新事業承継税制に関する相続税等の優遇措置の恩恵に授かることができる。そのため、新事業承継税制が適用するとしている会社タイプについての私見を述べることとする。

特例後継者に該当するケースと該当しないケース

 新事業承継税制によると、特例後継者が特例認定承継会社の代表者から贈与等によりその会社の非上場株式を取得した場合の贈与税又は相続税の全額について、特例後継者の死亡の日までその納税を猶予するものである。ところが、従来の事業承継税制では、納税猶予の対象株数は発行済株式数の3分の2まで、その対象株式の相続税額の80%までしか認められていなかった。しかし、今回の新事業承継税制では、すべての承継対象株式の相続税が納税猶予の対象となった。このことは後継者にとって相続税等の大きな負担軽減措置といえよう。

 今回の改正では、贈与等を受ける特例後継者は、同族関係者と合わせて総議決権の過半数を有し代表権を有する者でなければならない。また、この条件に該当する後継者が総議決権の10%以上有していなければならないが、それらの要件に合致すれば、その適用される特例後継者は、上位2名又は3名の者まで可能とされることとなった。また、贈与する株主も先代経営者だけでなしに、第三者からの後継者への贈与も対象となる。

 これらの条件に合致するケースの一例を紹介すると次のようなケースとなろう。

具体的な特例後継者に該当株主構成を例示すると次のような株主となろう。

贈与等の後の株主構成(取締役会非設置、各自代表)

株主 関係 役職 後継者 贈与等後株数と持株比率
ケース1 ケース2 ケース3
鈴木太郎 長男 取締役 後継者 100株40% 149株59% 200株80%
鈴木花子 太郎妻 なし なし 50株20% 50株20% 25株10%
鈴木陽子 長女 取締役 後継者 100株40% 51株21% 25株10%

 以上のケースでは、2名の後継者が特例後継者になりうるケースの例である。もし、鈴木陽子と鈴木太郎が兄弟姉妹でないとすると、鈴木陽子は50%超の同族グループに所属していないため、いずれのケースも特例後継者にはなれない。また、鈴木花子が太郎の配偶者ではなく、同族関係者に該当しない場合には、鈴木太郎は、ケース1では特例後継者となれないが、ケース2と3の場合は、特例後継者となれる。

共同経営タイプの会社は適用外

 後継者が、同族関係者と合わせて51%以上の株主グループに所属していないと特例後継者にはなれない。つまり、この新事業承継税制が適用できるのは、株主構成として、議決権総数の過半数を保有する大株主グループ形態の会社にしかこの適用ができない。前述の例示のケース1で、各株主の関係を親族として例示したが、各株主との関係を親族でないとした場合には、この新税制の適用ができない。すなわち、複数の株主が共同経営を目的に運営される会社、まさに、会社らしい会社は新事業承継税制の対象とならない。そのため、会社支配が可能な株式所有形態の会社には適用でき、共同経営タイプの会社には適用できないとする株主構成の相違による不公平さがあろう。そのため、あえて、この税制を適用するためには、共同経営のタイプの株主構成をその目的の意に反し、その株主構成を一人の株主に株式を集中させ、支配株主形態の会社にする必要があろう。

特例認定承継会社となるには

 この新事業承継税制が適用されるためには、特例認定承継会社にならないといけない。この特例認定承継会社とは、平成30年4月1日から令和9年12月31日までの間の贈与、相続の申告期限までに特例承継計画を都道府県に提出し、認定を受けなければならない。この特例承継計画を提出することにより、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第12条第1項、13条」の認定を受ける必要がある。そのため、認定書の交付書を相続税、贈与税のこの納税猶予の受けるときに添付をしなければならない。

 都道府県知事の認定にあたっての要件を要約すると次のようである。なお、この要件の判定時点は贈与時等の円滑化法で求められている時期である。

  1. 会社及び特定特別子会社が上場会社等または風俗営業会社でないこと
  2. 資産保有型会社ないし資産運用型会社でないこと
  3. 営業収入があること
  4. 常勤従業員数が1人以上であること
  5. 代表者が経営承継受贈者であること
  6. 代表者以外の者が拒否権付の種類株式を有していないこと
  7. 常勤従業員数の80%を下回らないこと。1人の場合は1人を維持すること

 なお、新事業税制では、7の雇用確保要件を満たさない場合であっても、納税猶予の取消はしないとされている。その代わり、雇用確保要件を満たせない理由を記載した書類で 経営革新支援機関の意見が記載されたものを都道府県知事に提出しなければならない。さらに、その理由が、経営状況の悪化である場合又は正当なものと認められない場合には、特例認定承継会社は、この支援機関から指導及び助言を受けて、その書類にその内容を記載しなければならない。

 赤字経営で、雇用確保要件を確保できない状況になったら、支援機関である税理士は特例認定承継会社に対して、コスト削減や生産性向上のための助言をおこない、雇用が確保されるようその努力と成果の記録が必要となろう。

 なお、支援機関の登録をしていない税理士は、顧客会社の事業承継税務サービス業務を十二分に果たすことはできない。そのため、支援機関の登録をしていない税理士は登録をして依頼会社の期待に応えるべきであろう。

資産保有型会社等は適用外

 特例計画の申請時に、資産保有型会社ないし資産運用型会社に該当している場合には、その適用ができない。そこで、資産保有型会社は、次に該当する会社とされている。

 資産保有型会社かどうかの判定は、次の計算式で計算する。
{(特定資産の帳簿価額の合計)+(本人・同族関係者への支払配当金及び損金不算入役員報酬)}÷{(資産の帳簿価額の総額)+(本人・同族関係者への支払配当金及び損金不算入役員報酬)}の割合が70%以上の会社を資産保有型会社という。

 資産運用型会社は、次のように計算する。
{特定資産の運用収入}÷{総収入金額(売上高+営業外収益+特別利益)}の割合が75%以上となる会社を資産運用型会社という。

一定の資産保有型会社等の事業承継税制への適用

 贈与時又は相続時等の判定時期に資産保有会社等に該当しても、次の事業実態があるとされる要件を具備している場合には、資産保有型会社等に該当しないものとみなされる。

  1. 常時使用する従業員の数が5人以上であること。ただし、「従業員」には、特例後継者と生計を一にする親族は、従業員の数に算入できない。
  2. 事務所、店舗、工場その他これらに類するものを所有し、又は賃借していること。
  3. 贈与日、相続の開始日まで、3年以上の次のいずれかの業務をしていること。

イ. 商品販売、役務提供等
ロ. イを行うための資産(事務所等は除く。)の所有又は賃貸
ハ. イ及びロの業務に類するもの
  なお、設立後3年未満の新設会社は、この要件を満たせない。

設立後3年経過した会社は適用可能

 設立後3年未満の新設会社は、資産保有型会社等に該当しなければ可能なように考えられるが、贈与の時に特例後継者の取締役等の役員就任期間が3年を超えていないと、この税制の適用ができない。実質上、設立後3年未満の会社はこの税制は適用できない。しかし、令和5年3月31日まで会社が設立され事業が開始され、その承継計画の申請をし、その承認後令和9年12月までの贈与、相続がこの税制の適用対象となるため、新設会社要件は十分クリアーできよう。

この記事の執筆者

粕谷 幸男

1973年(昭和48年) 税理士登録
1978年(昭和53年) 税理士事務所独立開業
2002年(平成14年)~横浜商科大学非常勤講師(税務会計)
東京税理士会理事、常務理事、日本税理士会連合会理事の他、全国青年税理士連盟、東京税理士会データ通信共同組合等、多くの税理士団体の理事を歴任。東京保険医協会からの依頼を受け、保険医サポートセンターで医師からの税務相談も受ける。
2002年「税理士法人の実務(共著 新日本法規出版)」、「税務行政の改革(共著 けい草書房)」
2004年「租税原理から税制改革を検証(共著 法律文化社)」
2005年「税務援助と税理士法(横浜商科大学 地産研広報)」他、多数執筆。